JR東海バスの短期集中連載第7弾である。ちょっと長くなるので、よろしく。
つばめのバスが巣立ち、これを引き継いだ瀬戸・春日井の街に名鉄バスが走り始めた。JR東海バスが発着していた、瀬戸駅前バスターミナルの1等席・3番乗り場にも名鉄バスが鎮座する。今回は瀬戸市内バス交通の今後について書いてみたい。
 JR東海バス路線の代替事業者選定では、名鉄バス以外の選択肢はあり得なかったはずだ。特に瀬戸では名鉄以外の事業者では市内に第2のJR東海バスを生み出すだけで、何の再編成にもならないのだ。名鉄というと、ここ10数年にわたる大リストラの果てに電車・バス路線を斬り(廃止)まくった経緯があり、代替事業者としての経験もないことから不安視する声もあったらしい。確かに一定期間のサービスレベル維持が約束されているとはいえ、その期間が満了するとどうなるのかという不安はある。岐阜市の名鉄バス・市営バスの岐阜バス移管では3年後に再編成が行われ、JR東海バス中津川営業所の北恵那交通移管では1年後に運転本数削減が実施された実例も存在する。 しかし、瀬戸市内公共交通の地域内格差を是正するためには、既存の名鉄バスに統一させることが最善の策であって、ロケーションが良いにもかかわらず行政が補助金を確約し、土下座してでも名鉄に来てもらわないといけなかったのだ。瀬戸有数の優良路線、品野・水野団地方面の路線バスが活性化しないようでは瀬戸の路線バス全体が衰退してしまうのだ。「立つ鳥跡を濁さず」の精神でつばめのバスは巣立ったというのに、その後混乱の末バスが衰退するようでは、名鉄バスに限らず瀬戸市や瀬戸市民の良識も問われてしまうだろう。 名鉄移管に際し、名鉄バスにJRバス同様の愛着があるのかという不安もあるようだが、名鉄の瀬戸に対する愛着の深さは瀬戸電を見ればわかるはずであり、こんな不安を唱えるのは瀬戸の交通史、しいては瀬戸の街を把握していない根拠無き決め付けなのである。 文献を紐解くと、瀬戸の街は電車・バスが行きかう交通の要所だったのだ。昭和40年代前半の瀬戸街道には名鉄バスだけでも(瀬戸関係分のみ掲載)、
瀬戸A (名鉄バスセンター〜守山・古瀬戸〜上仁木) 瀬戸B (名鉄バスセンター〜守山・古瀬戸〜小渡) 瀬戸C (名鉄バスセンター〜守山・古瀬戸〜豊田) 瀬戸D (名鉄バスセンター〜守山・古瀬戸〜品野) 森林公園B (森林公園ゴルフ場前〜三郷〜古瀬戸〜赤津) 本地ヶ丘 (名鉄バスセンター〜本地〜古瀬戸〜赤津) (出典:『尾張旭市誌』資料編 尾張旭市 昭和46年) これだけのバス路線網が存在した。瀬戸電の起点が堀川だったので、名鉄バスセンター直通便が多い。長距離便が多いのは、当時三河山間部から現金収入を求めて労働者が瀬戸へやってきていたためらしい。しかし、三河山間部からの労働者は豊田へ流れ、昭和53年に瀬戸電の栄町直通により、再編成がおこなわれる。昭和54年元旦現在の運行本数は以下の通りである。
瀬戸〜名古屋線 平日110本、休日107本(瀬戸街道経由) 瀬戸〜本地ヶ丘線 平日57本、休日37本(国道363号線経由) 瀬戸〜品野線 平日53本、休日54本 瀬戸〜御作線 平日11本、休日11本(藤岡町方面) 瀬戸〜東山線 平日104本、休日114本(藤が丘行) 瀬戸〜菱野団地線 平日123本、休日118本 (出典:瀬戸市統計書昭和54年刊 瀬戸市 本数は片道、カッコ内は筆者加筆)
ちなみに国鉄バスでは 瀬戸追分〜多治見 平日10往復、休日10往復 瀬戸追分〜名学大前 平日38往復、休日18往復 瀬戸追分〜新豊田 平日21往復 休日18往復 瀬戸追分〜菱野団地 平日20往復、休日19.5往復 (出典:同上)
名鉄バスは国鉄バスと同一経路で競合していたのだが、名鉄バスの本数が当時の国鉄バスの運転本数を凌駕していたのだ。しかも、品野行きについて名鉄バスは古瀬戸経由と一里塚経由と2系統存在していた。 ところが、競合の激化は共倒れをもたらしやすい。名鉄バスは徐々に自社単独路線に集約を始め、平成2年に品野地区からの撤退を行い、菱野団地へのバスも名鉄が本数を削減しJRバスとの重複区間では一部バス停をクローズドア化することでバス事業者の住み分けが完成する(クローズドアは事業者にはメリットがあるが、利用者にはメリットの無い愚策である)。
 不安の声を払拭させるために、受ける立場の名鉄も地域に配慮をしているように感じる。まず、始発・終バスの時刻を改善し、品野行きには深夜バスも登場した。そして、名鉄バスの走る瀬戸市全域で「トランパス」対応カードが利用できるようになり、名鉄瀬戸線との乗り継ぎ割引によって、瀬戸市内公共交通の地域間格差が大幅に是正された。そして、路線編成では瀬戸の街が尾張瀬戸駅と新瀬戸・瀬戸市の各駅とターミナルが2か所に分散されていることから、運行コストの軽減を目的に名古屋市交通局ならやりそうな尾張瀬戸駅・新瀬戸駅での愚かなバス路線ブツ切りをせず、この区間を名鉄瀬戸線と並走を容認した点も評価できる。もし、これを強行しようものなら、瀬戸電との乗り継ぎ利用以外はバスを敬遠してしまうだろうし、新瀬戸駅〜瀬戸駅前間に無駄な回送バスが発生することになる。人の流れが無くなることは街の衰退につながりやすく、瀬戸市内のバス路線は再び衰退の道を歩み始めるのも時間の問題だったかと思われる。 また、代替バス路線でない既存の名鉄バス路線・菱野団地からのバスも、瀬戸駅前〜新瀬戸駅間を昼間限定ながら延長し瀬戸市の総合病院である陶生病院への直通バスを運行するなどの改善がみられる。JRバスが平成19年に南山学園へのバス路線を廃止して以来、2年半に渡り菱野団地方面からは直通するバス路線が無く、名鉄もこの区間がJRバスのテリトリーであることから進出できず、地域住民の利便性を欠いていた。直通するバスが無いことから、タクシー利用を強いられる通院者も相当数いたらしい。タクシーはドアツードアの利用ができる反面、均一的なサービスが期待できないことや年金生活者など経済的弱者に冷酷などデメリットも少なくない。通院の際、毎回タクシーのお世話になるというのは相当な費用が必要となる。公共交通が不便なため、タクシー料金を考慮し医療機関への受診回数を減らさねばならない高齢者が瀬戸に限らず全国に増えつつある。タクシーがあるから問題ないという論理は、高齢者社会に突入し弱者切り捨てを容認する非人道的な論理だ。 バスの直通運転再開で経済的負担が1/4程度まで抑えられるため、初診外来や夜間など特殊事情でない限り、経済的弱者でもある高齢者に安心して通院する機会が増えるものとみられる。公共交通は弱者視線で公共交通を編成する必要がある。先ほどから述べているこの弱者とは、肉体的弱者と経済的弱者に分類される。どうしても前者に目が行きがちであるが、近年の不況では後者に対する格差が深刻になっており、後者に対する救済が求められている。今回の再編成は福祉の観点に限らず経済的弱者にとっても望ましいものであり、名鉄バス移管の賜物であるといえよう。しかし、道が全般的に狭い瀬戸で大型バスは不要だと思う。担当する名古屋営業所(長久手町)は大型バス主導の営業所であるが、地域に配慮して中型・小型バス中心の編成をした方が良いと思う。 今回の再編では瀬戸市が補助金を出したことがスムーズな移管を進めたものとみられる。瀬戸市は今後の利用動向によって更に再編すること広報で予告した。補助金を出す側として当然の予告である。バス路線を維持するためには利用喚起する名鉄バスのサービスと、瀬戸市民の積極的な利用のベクトルをいかに歩みよせるかによる。ロケーションが良いからと一方が手を抜くとバス路線は衰退する。これを肝に銘じ、つばめのDNAを名鉄バスにも伝えて欲しい(続く)。 テーマ:鉄道関連のニュース - ジャンル:ニュース
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