地域経済の疲弊・衰退が顕著ななか、地方のローカル鉄道線が東日本大震災の影響を表向きな理由に再び廃止へ向かう波が押し寄せようとしており、その流れに追随する恐れが出ています。 青森県の十和田観光電鉄(三沢~十和田市)が10月7日の臨時取締役会で鉄道事業の廃止を正式に決定してしまいました。同社は経営難から沿線の三沢市、六戸町、十和田市に今後10年間で約5億円の資金援助を要請していましたが、自治体側は10月上旬に「経営改善が見込めない」と要請を拒否したのが決定打になったようです。この地域では東北本線(現・青い森鉄道)から内陸部に向けて十和田観光電鉄と南部縦貫鉄道(これまた濃い鉄道でした)が分岐していましたが、いずれも過去帳入りすることになるようです(画像は2011年10月12日河北新報朝刊より)。 これで今年度末での廃止が決定した路線は、十和田観光電鉄と少し前に来年3月末での廃止が確定した長野電鉄屋代線の2路線となりました。
私はこの鉄道は未訪ですが、沿線の状況を見ると十和田観光電鉄の経営は相当厳しいようです(画像は読売新聞2011年9月10日青森県版より、名古屋栄での県人会まつりでの記事展示を撮影)。沿線人口は少なく、三沢市は三沢駅が街の南端にあるため東北線に接続させるだけ。六戸町では鉄道は街の郊外を走るだけという惨状で、沿線住民の輸送は期待薄で朝の高校生輸送の他には目立った利用は少なく、十和田湖観光という武器を持っていても十和田湖へのアクセスが四通八達であるため、青森市や盛岡市からのアプローチコースに比べ、一旦三沢から逆方向に戻る格好となるこの路線はルート選定では不利な上に、東北新幹線の八戸・新青森への延長開業により、これまで所要時間で優位だった三沢空港経由のルートの優位性も失われ、更に十和田観光電鉄との交差点に新幹線駅ができなかった(先に廃止になった南部縦貫鉄道との交差点近くに七戸十和田駅ができたのが何とも皮肉!)ことから、十和田湖観光客の誘導が絶望的となるなどジリ貧だったようです。また、経営陣の読みの甘さや長年累積していた企業への不信感から沿線自治体からも支援拒否を受け、完全に四面楚歌状態だったようです。
来年4月1日のバス転換に向けて協議を進めていくそうですが、この地域の気象特徴を考えると冬季の輸送が確実に定時輸送できるかがカギとなります。福井県の京福電鉄(現・えちぜん鉄道)が半年で2度の正面衝突事故を起こして運行停止命令を受けバス代行体制になった、いわゆる「負の社会実験」で冬季降雪期の通勤通学で大きな支障をきたし、地元中学生の進学進路まで変更せざるを得なくなった問題を思い出します。
既に廃止が確定した長野電鉄屋代線の沿線では、既に代替バスへの検討が行われているようです(画像は信濃毎日新聞2011年8月8日朝刊より)。しかし、ここでも鉄道時代に比べて所要時間が大幅に増大することや運賃の問題から、代替バスへの不安が広がりつつあります。鉄道代替バスが代替ではなく、逆に地域の公共交通網を衰退させてしまうパターンはここでも踏襲される恐れが出ています。
存廃に揺れるローカル線の特徴のひとつに、生活経済圏の外周が鉄道で、地域の中心地域へのアプローチがバスという、本来の輸送動向が逆になっているケースがあります。東海地方で現存する鉄道では天竜浜名湖鉄道、過去帳入りした鉄道では名鉄三河線の碧南~吉良吉田間などがあります。今回の屋代線もこのパターンです。しかも、このパターンでは鉄道とバスの管轄が別会社で連携が図られないケースも非常に多いのが特徴です。 屋代線のケースでは鉄道が長野盆地の外縁を走るため、長野市中心部へは鉄道(須坂経由)ではなく最短距離で行けるバスが担っており、特に松代からの長野駅に向かうバスは行政・警察の支援を受け、朝の通勤時にはバス専用レーンが整備され、バスの活性化事例として紹介されるほどです。ところが、このバスは川中島バスの管轄であるため、鉄道代替バスを担当する予定の長電バス管轄でないことから、バス同士の連携が図られるかは疑問視されます。
この他にも名前は伏せますが存続が「危ない鉄道」が全国各地に点在しています。JR東日本や三陸鉄道も東日本大震災被災地域の鉄道を復旧させると言いますが、膨大な費用がかかることから慎重な判断をすべき段階に来ています。でも、これらのローカル鉄道線を必要としている人がいます。地域を衰退させることの無いように、これ以上の廃止が出ないことを祈りたいです。
スポンサーサイト
テーマ:鉄道関連のニュース - ジャンル:ニュース
|