 近鉄が三重県四日市市内を走る内部線と八王子線について、利用者の減少と毎年3億円程度の慢性的な赤字経営であることから、「運営費の補助が無いと存続が難しく、老朽化した車両の更新時期となる来年夏ごろに今後の方向性を出したい」と四日市市に申し入れをしていたことが明らかとなり、その進展によっては存廃問題に発展する恐れが出てきました。 この情報、私はネットで知ったのですが、名古屋市内向けの新聞各紙では報道は無く、三重県向け紙面だけでの報道だったようです。しかも、先行したのは朝日と読売。1日遅れで毎日と伊勢新聞が報道し、6月10日以降の紙面を読み漁りましたが中日新聞はスルーでした(桑名市中央図書館にて確認済)。 近鉄内部・八王子線は、四日市市中心部と郊外を結ぶ路線で総延長は2路線合わせて7.4kmのミニ路線。線路の幅が762mmしかないナローケージという特殊軌道で、全国でもここと同じ三重県内の三岐鉄道北勢線と富山県の黒部渓谷鉄道でしか見られない珍しい鉄道です。しかし、その珍しさ故に他の鉄道からの車両や設備、部品の融通ができないため経費が割高であることや、1日約1万人の利用があるとはいえ利用者は減少傾向にあり、その大半が沿線に4校ある高校生がメインで、割引率の高い定期券を利用することから増収につながらないため、慢性的な赤字に陥っているようです(画像は2012年6月15日朝日新聞朝刊三重県版より)。
 報道によると内部・八王子線では車両の更新が必要で、その費用は14億8千万円。四日市市はその1/6である2億5千万円を負担する予定だったものの、毎年3億円の赤字を出す鉄道の赤字補てんとなると、その予算は倍増するわけで四日市市は負担について懸念を示しているそうです。この構図は廃線となった鉄道沿線自治体と同じパターンを踏襲しています。 そもそも、近鉄は大阪・奈良・京都の都市圏や伊勢志摩観光による黒字分をローカル線の赤字に充当することで路線網を維持してきました。しかし、鉄道の利用は全国的に減少傾向であり、近年では大阪・奈良・京都での黒字だけでローカル線までカバーできなくなっているようです。 特に愛知県や三重県では統計年鑑のデータによると、近鉄沿線各駅の利用者数は減少傾向にあることが分かります。少子高齢化・クルマへの移行、競合するJRへの移行など要因が考えられ、近鉄の圧倒的なシェアも決して安泰では無い事を示しています。 近鉄は数年前に伊賀線と養老線を本体から分離しました。そして、今度は次に成績の悪い内部・八王子線にターゲットを合わせてきたのでしょう。確かに総延長7.4kmで毎年3億円も赤字を垂れ流されては厳しいものがあります(画像は2012年6月15日読売新聞三重県版より)。
 四日市市議会で四日市市長は内部・八王子線の存続について意欲を示すも、赤字補てんなどの財政支援については否定的し姿勢なのだそうです。議会内では「県に支援を求めるべきだ」「運賃を値上げしてでも存続を」といった意見や、「今後の事業の継続性は疑問。運営費に補助するべきではない」といった声が上がっているとのこと。ただ、市長や議員さんには「1日1万人も利用者がいるのだから残るだろう」という考えが根本にある様な気がしてなりません。 また、近鉄名古屋事務所のコメントも気になります。「駅の無人化など経営改善に努めているが、今後も利用客の減少が予測され、路線を維持するためには抜本的な経営改革が求められている」。しかし、近鉄は本気で経営改善を図っているか疑問視すべき点もあります。例えば、内部・八王子線での運営は非常に雑で、近鉄四日市以外はすべて無人駅。電車はワンマン運転で他社なら乗車券回収や運賃収受は運転士が行うものの、近鉄はこれを行わず、駅の回収箱に入れるように誘導する信用乗車方式を導入していますが、それが正しく行われているかは甚だ疑問で、常態的に相当額の運賃取りこぼしがあるとみられます。近鉄は10年以上前から閑散路線でこの方式を採用していますが、ここまでザルな状況なのが北勢線の頃からそのまま放置されているのは収益を追求すべき民間企業としては異常としか思えません(画像は2012年6月16日伊勢新聞より)。
 内部・八王子線の存廃問題。このまま存続か、伊賀線・養老線の様に近鉄主導による分離か、北勢線の様な完全分離か、更にはバス代替か、どうなるかは分かりません。しかし、バス代替は通勤通学時間帯の輸送が困難であり、更に四日市市内の道路事情の悪さもあり厳しいでしょう。一方、現状維持ではそのうち行き詰まってしまう危険性もあります。四日市の様な30万人都市なら、富山市の富山ライトレールの様に公共交通を機能的なものにリニューアルすることで復活させられはしないかと思うこともあります。
 先人たちの努力によって造られ、残って来た鉄道という財産。失ってからでは遅いわけで、どうすれば地域の足として維持できるかを知恵を出し合いながら考えて欲しいと思います。
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